インタビュー

犬塚浩弁護士

※経歴は『NIBEN Frontier』2021年11月号時点のものです。

テレビの仕事ができるのがうれしかった

犬塚 浩 Hiroshi Inuzuka (45期) 当会会員
2010年1月~2012年3月 東京三弁護士会民暴委員会連絡協議会議長
2012年4月~2013年3月 第二東京弁護士会副会長

編集部ご経歴を教えてください。

犬 塚生まれは岡山県の倉敷市という牧歌的なところで、高校まで地元の県立高校に行き、その後は、東京への憧れがあって、東京の大学を受験しました。
高校の成績は本当に良くありませんでした。大学入試も、EとかD判定だったのに大逆転で合格できました。試験当日は雪で開始時間が遅れ、僕は近くのホテルに宿泊していたのですぐ会場に行けましたが、電車の中でずっと待たされていた人は力が発揮できなかったのかもしれません。

編集部弁護士になろうと思ったのはどうしてですか。

犬 塚大学3年生になって就職を考えたときに、父親がゼネコンの技術者で、僕が小さな頃から転勤があったので、まず転勤がない仕事が良いと思いました。また、自分はあまり組織に向いていないので、1人でできる仕事が良いなと。でも起業するまでの力もなかったので何か資格をと。そして、やたらと高い目標を目指したくて、無鉄砲にも程がありますが、司法試験を受けることにしました。
当たり前ですが甘くなくて、何度か落ちて、最後は根性で合格しました。今でも司法試験に落ちる夢を見ます(笑)。

編集部若手時代はどんなことを意識して過ごしましたか。

犬 塚頭が良い人が多いこの業界で、みんながやっているテーマに飛び付いても、自分は生き残れないと思い、自分なりにやれることをやってきました。
また、3つ心掛けたことがあります。①迅速な対応、②分かりやすい対応、③先回りした対応です。僕から見ると、頭が良い人は、聞いている人が分からない顔をしていても平気で話し続けてしまう人が多いように思います。高校のとき、僕は先生が言っていることが分かっていないのに、そのまま話し続けている先生の話を聞くのが苦痛でしたので、自分は、分かりやすく説明するということを常に心掛けました。
これが後でお話しするテレビの世界で長く使ってもらえる1つの理由なのかなと。テレビの人って、法律とは縁遠いし、ちょっと浮世離れしたところもあるので、少し目線を合わせてあげないといけません。そこがうまくマッチしたのかなと思います。

編集部テレビに出演するようになったのはどういった経緯でしたか。

犬 塚弁護士登録後、2、3年目に連続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤の第1審判決がありました。
まだテレビに弁護士が出ておらず、テレビに出ることは下品だと思われていた頃でしたが、この事件がきっかけで、ある先輩弁護士から、フジテレビの『おはよう! ナイスデイ』への出演の機会をいただきました。
出演は、半年ぐらいで終わりましたが、その7、8年後に、みのもんたさんの『ザ・ジャッジ! 〜得する法律ファイル』という番組で、番組には出演しないけれども、こんなシチュエーションで慰謝料はいくらになる、刑期はどれぐらいになるというネタ作りと回答の収録フィルムを作る仕事に参加することになりました。
僕は、テレビが一家団らんの中心にあって、食卓でテレビを囲うような世代だったので、テレビの仕事ができるのは、裏方であってもうれしくて、慰謝料額を問われれば、判例集や『判例タイムズ』、『判例時報』といった法律雑誌をひたすら調べました。当時はまだインターネットの検索システムなんてないので全て紙ベースです。そうして答えていたら、元締めの弁護士の先生が、「犬塚はよくやってくれている」と、番組終了後も、バラエティー部門の相談弁護士を担当させてもらえることになりました。
裏方の相談に乗りながら、バラエティーの人たちが、本当に血眼になって、汗まみれ、泥まみれになってまでも、笑いを追求している姿を目の当たりにし、この人たちの力に少しでもなれたらと感じました。

編集部現在出演中の『ワイドナショー』の話があったのはその後ですか。

犬 塚当会の副会長の任期明けの平成25年にお話がありました。出演は、バーテンかお客さんの格好と言われ、「客だろうな」と思っていたら、3日後に「(バーテンの服を作るので)サイズを教えてください」と言われてびっくりしました。
テレビ番組は、通常、いきなりゴールデンで放送せず、深夜で1回慣らします。最初は、月曜の深夜の放送で「誰も見ないし、いいや」と思って引き受けました。まさかそれが日曜の朝の放送になるなんて思っていませんでした。正直、今でもバーテンの格好をしていることについては、ご批判があります。
収録後は、VTR と収録内容のチェックをします。フリートーキングは常に表現の自由の限界、差別的な表現との背中合わせですが、出演者の方も命を懸けてトークしている部分があります。際どい表現があった場合にカットするのかしないのか、もしクレームが来たときにどう答えるのかということは考える必要があります。ただ、皆さんプロなので、ぎりぎりのところをわきまえていますから、チェックで一番心配しているのは、実は僕の表現だったりします。


『ワイドナショー』の収録後、メインスクリーンの前で

編集部番組を見ていると、先生はいつも簡潔で的確な表現をされていますよね。

犬 塚テレビは、常に尺という感覚があります。
我々弁護士って、弁護士同士で会話をするときでも、いつも話が長くなりがちですよね。法律の話は、基本、一般の方には面白くないので、弁護士がテレビで長々しゃべるとチャンネルを変えられてしまいます。僕がしゃべって視聴率が稼げるわけではなく、松本人志さん、東野幸治さん、ゲストの人が大事なので、その人たちのトークをいかに盛り上げられるかに気を付けています。

編集部テレビに出て有名になると、すごい仕事が来ると思っている人もいるかもしれませんが、いかがですか。

犬 塚ほとんどないですね(笑)。ただ、人にお会いしたときに、何人か「見ています!」と言ってくれて、話に入りやすいという面はあります。

編集部テレビで答えにくい質問をされたり、コメントを求められたりするときは、困りませんか。

犬 塚妙なお茶の濁し方は覚えましたね。「どうなんですかね、それはさておき...」みたいな感じで(笑)。
よく法定刑を聞かれるんですが、全部は覚えてないじゃないですか(笑)。その場合も「最高は懲役刑になるんですけど、実は...」とか、話題を変えていく方法みたいなものは身に付けましたよね。

編集部最近のテレビ業界のコンプライアンスにも変化はありますか。

犬 塚最近は、株主総会でも、「男性の方」「女性の方」と言うのはだめだと言われてきていますが、表現がどこまで許容されるのかは、テレビ業界でも大きく変化してきていると思います。特にお笑いは、性別や容姿や体型のことも突っ込んで笑いにするところがあるので難しいです。
命懸けで仕事している出演者の表現行為なので、安易にダメ出しもできませんし、現場は悩み続けるしかないんだろうと思います。

編集部弁護士としてテレビ業界に関わる仕事をするためには、どうしたら良いでしょうか。

犬 塚そこは、実は難しいですよね。テレビに出たくても、何かオーディションがあるわけでもないですし、やはりある種のコネクションが重要だと思います。プロダクションに入っている弁護士もいます。テレビの現場はこれからもっとリーガルレベルを上げていかなければいけないところがあるので、裏方的な仕事も、まだまだ必要とされていると思います。
それから、数少ないチャンスで、コメントを求められたときに、やっぱりなかなか上手な人は、あまりいない印象もあります。先程述べたように、尺の感覚を持っていないとか、もっと目線を合わせないとだめとか、そこはやはり意識して、チャンスを活かしていただく必要はあるかと思います。

編集部ワーク・ライフ・バランスはどうですか。

犬 塚ストレスのたまる仕事ではあるので、趣味を1つでも持つことは大事かと思います。でも僕は正直失敗しました。「弁護士として、稼ぎもあって、ちゃんと評価されていることで、家族も養え、楽しいこともできる」という考え方なので、今でも土日も必要になったらやっぱり仕事場に行ってしまっています。
ただ、若い人に言いたいのは、この仕事には、ステップアップして、昔はこんな依頼者の方と仕事ができるとは思えなかった人とできるようになると、だんだん仕事をやり過ぎてしまうという、魔力みたいなものがあるんです。だから是非ワーク・ライフ・バランスを意識してもらって、多少お金と時間を掛けてでも、何か趣味を見つけてもらえると良いと思います。

編集部若手に向けて、これからの時代を生き抜いていくために求められる力は何だと思いますか。

犬 塚僕が弁護士になった27年前に今の自分を予測できたかというと、絶対予測できませんでした。これから法曹界はどうなるかという質問は、これから日本はどうなるかという問題と同じで、そんなことは誰も分かりません。では、どうしていくのが良いかというと、やっぱり自分が良いと思っているものを少しずつ温めていくことが大事だと思います。それが受け入れられるかどうかは、世の中が決めることなので、それを長く続けていくということが必要だと思います。
僕も、弁護士になりたての頃は、与えられた仕事8割、将来の勉強2割という時間配分でした。
自分の感性に合った、あまり格好つけないで自分に合ったテーマを見つけて勉強をしていました。
お金にならないし、人助けみたいなものかもしれませんが、自分のバックボーンに沿ったものを温めて長く続けると良いかなとは思います。

編集部先生は、テレビ関係のほか、様々な業務分野でも活躍されていますが、専門性をどのように開拓されたのですか。

犬 塚チャンスは、隅っこの方に転がっていると思います。僕は、建築や民事介入暴力いわゆる民暴の事件を多くやってきましたが、当時民暴なんて扱っている弁護士はそんなにいませんでしたし、建築も、ほかに受けられる弁護士がいなくて、知り合いの弁護士から事件の紹介がくるという感じの分野でした。父も兄もゼネコン勤めだったこともあり、僕には、建築の分野も親近感があって面白く感じていました。施工側だと、ちゃんと担当者がいて教えてもらえてしまうので、むしろ消費者側に立つと自分で勉強するようになります。
建物と設計図をよく見て、問題点を取り上げて、とやっているうちに少しずつ知識を身に付けていきました。

編集部いろいろな分野を広く扱うよりも、どれかに絞って取り組んでいった方が良いでしょうか。

犬 塚結局仕事は、人脈と分野が重要です。人脈は、対象をどんどん広げられますが、分野は、広く浅くが通用しません。判例も、法改正も、どんどん新しいものが出てきます。建築分野でも、全然分からない人がいきなり入ってもなかなか難しい分野ですので、分野が分かれていくことは仕方のない部分があると思います。
ただ、何だかんだで、専門としていた分野の周辺の仕事も結構やっています。僕は建築系の業務をしていたら、いつの間にか賃貸住宅の話が一緒のところから来て、その次に今度はマンション管理の話がやって来て、建て替えの話がやって来てと、狭い範囲の専門になるのではなくて、少しずつ、周辺の分野のことも一緒にやっていくようになりました。専門の範囲の狭さを心配する必要はないように思います。

編集部若いうちにどんなことをしたら良いと思いますか。

犬 塚先程述べた趣味を持つということも大事ですし、この業界では、礼儀作法を誰も教えてくれませんから、そこは意識した方が良いと思います。礼儀作法ができていなくて損している人は何人もいます。
エンタメの世界は、結構、挨拶が大事で、テレビに出演するときは、僕も、楽屋挨拶をしています。あんまり皆さんの大切な時間を邪魔してもいけないですし、タイミングにも気を使います。挨拶は、こんな大先生が自分のことを知っているわけがないと思ってしまったり、遠慮してしまったりもするので、難しいところですが、やはり迷ったらしておいた方が良いと思います。飲み会のお礼も、ついつい忘れがちになりますが、大事だと思います。
それから、ほかの弁護士に仕事をお願いする立場になって思うのは、あるテーマに対して5やる人と7やる人と10やる人がいます。これは、不思議なことに、違うテーマを頼んでも同じく5と7と10になります。では5やる人は10やる人よりも暇かというとそうでもない。5の人はあっぷあっぷしている感じです。お願いする側からすると当然10やる人の方が良いですよね。
ただそこは、価値観や考え方、ワーク・ライフ・バランスの捉え方にもよるので、どちらが正しいということではないですが、登録後、最初の3年から5年くらいは、自分の中で何を重視するのかを意識して、イメージするところに近づけるように取り組んでいくと良いのかなと思います。

編集部最近では、『ドラゴン桜』などドラマでも弁護士が主役になっていますが、今後弁護士業界はどのようになっていくと思いますか。

犬 塚僕が合格した年の合格者は500人でした。僕らは、ある意味、人数が少ないことで良い思いをしたと思います。逆に今、人数が増えて、僕らの世代を江戸時代とすると、明治維新が起きたと思って見ています。ちょっと混沌としていますが、ここからすごい人がどんどん出てくるし、若い人、いろいろなアイデアを持っている人には、すごくチャンスのある時代だと思います。テレビで活躍している弁護士も昔と比べるとすごく増えました。行政で市長をやっている人もいますし、いろいろな分野で活躍している弁護士がたくさんいます。僕は、よく分からないのであまりやっていませんが、最近だとネットで検索をするとヒットする弁護士の名前や法律の解説も多いですよね。その人のキャラクターにもよると思いますが、広くネットで発信するというのも、1つの手でありチャンスなのだろうと思います。

編集部最後に、弁護士の魅力を教えてください。

犬 塚やっぱり弁護士をやっていなければ会えなかった人に何人も会えたことです。僕みたいな人間が、いろいろな人にお会いできて、話もできたというのは、弁護士の仕事の1つの魅力だと思いますね。
関西の方やお笑いの方からすると、松本人志さんは、神様みたいな人ですからね。そんな方とお話しできるので、うらやましがられて、時には妬まれているのではないか、と思ってしまいます(笑)。
もう1つは、「ありがとう」と仕事で言われることですね。やっぱり喜ばれることが一番の仕事の糧です。事務所を経営していく上で、お金も大切ですが、仕事をして「ありがとう」と言われるのは、お医者さんや僕ら弁護士など数少ない仕事であり、大きな魅力だと思います。
僕のような者でも、自分の居場所を見つけて、それなりに楽しんでやっていける。もちろん常に僕らの仕事は危機があるから、どこで足元をすくわれるか分からないという怖さはありますが、若い人も、どこでどういうチャンスがあるか分かりませんので、是非いろいろと挑戦して欲しいと思います。